2013年10月23日水曜日

話をなあまあに済ませるから、取り返しのつかない結果になる-てんかんを考える-

 今回は過去のコラムから二つ取り上げる。
 ただ誤解のないように言いたいが私はてんかん当事者への差別には断固として反対だということを述べておきたい。

2012年04月14日
触らぬ神にはたたりなしでいいのか
 一九九三年九月、人気作家であった筒井康隆氏は作家活動をやめるとして、「断筆宣言」をした。
 ことの起こりは、同年七月八日、日本てんかん協会が角川書店発行の『高校国語Ⅰ』に収録されている筒井作「無人警察」がてんかんに対する差別を助長するとして削除を要求したことに端を発する。この作品は短編集「にぎやかな未来」に収録されており、自動車を運転しているてんかん患者の脳波を検知する「ロボット警官」が登場していた。それを角川書店は高校国語の教科書に収録したことから、てんかん協会が、「削除もしくは他の作品に差し替える」ように抗議した。だが筒井氏とてんかん協会の話し合いはこじれ、「断筆宣言」に至ってしまった。1996年末、筒井氏は「自主規制撤廃に関する覚書」をいくつかの出版社と取り交わした上で、断筆を解除した。また、「無人警察」については次の改訂で教科書から削除することで合意し、94年11月7日の記者会見で発表した。そのかわりてんかん協会は今後筒井氏の作品に削除や訂正などを要求しないことを受け入れた。
 私はてんかん協会のそのときの対応に大きな疑問を感じている。てんかんという病気を正確に伝える絶好の機会を何故自ら葬り去ってしまったのか?その結果、このような事件にどうやって対応するのか。

【社会】
祇園で車暴走 7人死亡 信号無視 交差点突入
2012年4月13日 東京新聞朝刊

 十二日午後一時ごろ、京都市東山区の繁華街祇園の交差点に軽ワゴン車が突っ込み、次々に歩行者をはねた。京都府警などによると、千葉県八千代市のAさん(77)ら歩行者の男性二人と女性五人が死亡、十一人が負傷した。軽ワゴン車の男も死亡した。 
 府警は自動車運転過失致死傷容疑で捜査を開始。軽ワゴン車を運転していた京都市内の藍染め製品販売会社社員、B容疑者(30代前半)の遺体を司法解剖し、死因などを調べる。姉(30代前半)によると同容疑者にはてんかんの持病があり、府警は発作の有無など事故との関連を調べている。B容疑者は事故直前に、配達のため現場近くの会社を車で出ていた。
 府警によると、B容疑者は三月に運転免許を更新しているが、その際、てんかんの持病については申告していないという。同容疑者が通院していた病院の院長は「車の運転は本人や家族に再三にわたり禁止すると言ってきた」と述べ、対応は適切と強調した。
 府警によると、軽ワゴン車は事故の直前にタクシーに追突し、停止しないまま猛スピードで赤信号の交差点に進入。横断していた歩行者らをはねた後、交差点から約百八十メートル北に離れた電柱に突っ込み停止した。目撃者によると、交差点では約三十人が横断していた。
 軽傷を負った同市東山区の自営業の男性(29)は「信号待ちをしていたら、銀色の車が赤信号を無視して歩行者の列に突っ込んだ。そのまま止まらず走り去った」と話した。
 B容疑者の姉によると、B容疑者はことし一月から自宅で二~三回、てんかんの発作が起きていた。姉は「会社にはてんかんの持病があると告げた。今の会社を辞めて、次の会社を探そうということになっていた」と証言。B容疑者の勤務先の経営者は、取材に対し「病気のことは知らない」としている。
 現場は京都の中心街を通る四条通にある交差点で、市民や観光客でにぎわう花街の一角。最寄りの京阪祇園四条駅は一日に約四万二千人が利用する。

 この事件はてんかん当事者にとって肩身が狭くなる事件である。
 車を運転しなくてもいい仕事を政府がどうやって保証するのかなど、さまざまな課題がある。B容疑者は仕事をやめたとしても次の移籍先がないのだからそこに問題がある。B容疑者は約10年前にバイク事故で頭を強く打ち、一時危篤状態となり言語障害が残ったがリハビリでほぼ回復、だが通院は続けていたという。そこに約1年前に「てんかんの疑い」と診断され、最近3カ月は症状がひどくなり、家族会議で「仕事も危なくて続けられない」として転職を検討していた。母親は区役所に障がい者認定について相談したばかりだったという。
  日本てんかん協会は今回の事故について「原因が解明されていない段階でコメントはしない」という。だが協会関係者は差別の助長を懸念し「心臓や脳などの病気でも発作は起きる。てんかんと関連づけることには慎重であってほしい」と話す。だが、過去の過激な行動がてんかんへの偏見をもたらしていることは明らかではないか。それで困るのはてんかん当事者である。
 日本てんかん学会の専門医で広島市民病院の伊予田邦昭医師は「正しく服薬や治療をしていれば運転中に発作を起こすことはめったにない。てんかんのある人が必ず事故を起こすとの誤った印象は持たないでほしい」と話している。彼らも独断と偏見に苦しめられているのである。
 だが、おきてしまったことは仕方がない。まず我々にできることをしていかねばならない。正確なてんかんの情報を伝えることと、精神障害者福祉手帳の申請をしやすくすること、一般企業に正規雇用の義務付けをさせる(無論派遣請負の正規雇用化も同時に行うべきなのだが)などで環境を改善させることである。それは絶対に「触らぬ神にはたたりなし」であってはならない。

 ついでに触れる程度で。テレビ朝日によるビックダディシリーズ騒動に一言言いたい。
 1月4日の「痛快!ビッグダディ13」放送後、当事者が雑誌等のインタビューに答え、「引越しも接骨院開業も全部経費は局持ち」などと番組打ち切りを示唆して自ら半ばヤラセを暴露した。その上今回の番組で散々あおるようなことばかりしたらしい。ゴールデンウィークには新たな作品まで送り出す始末。
 これでは単なるギャラアップを狙ったやらせと見るしかない。これで犠牲にされたのは子供たちや元妻ではないのか。腹が立って仕方がない。

2012年08月25日
どのようなリスクを担うのか、覚悟を問いたい
【栃木】
鹿沼のクレーン車死亡事故 「法改正を」署名20万人
2012年8月23日
 鹿沼市で昨年四月、北押原小の児童六人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、刑法改正などを求める署名活動をしてきた遺族は二十二日、新たに集まった署名約三万人分を法務省と警察庁に提出した。今年四月に出した署名と合わせ、約二十万人分となった。「私たちにできることはここまで。悲劇を繰り返さないための方策を国は真剣に考えるべきだ」として遺族は署名活動を終え、今後は国の対応を見守る。
 事故は、運転手が持病のてんかんを申告せずに免許を取得し、薬を飲み忘れて運転中に発作が起きたのが原因だった。しかし、最高刑が懲役二十年の危険運転致死傷罪の適用は見送られた。
 遺族は(1)てんかんを隠し運転免許を不正に取得して起こした死傷事故に危険運転致死傷罪が適用される刑法改正(2)てんかんを隠した運転免許の不正取得を防ぐ制度構築-の2点の改訂を要求。4月に約17万人分の署名簿を国に提出した。一周忌に合わせて四月に署名を出した後も、各地から署名が届けられ、累計で刑法改正は約二十万一千四百人分、免許制度見直しは約十九万六千七百人分が集まった。警察庁は六月から有識者会議を設け、対応を検討している。
 亡くなったA君=当時(9つ)=の父下妻信市さん(48)は「四月以降もこれだけの署名を集めることができ、ご協力に感謝しています」と話した。 (内田淳二)
*東京新聞

 残念だが、私はこのままの状況では遺族の提案もどきに断固反対する。
 下妻はとんでもない思い上がりをしている。確かに、医師から運転をしないよう勧告された場合はすべきではない。だが、この改悪によっててんかん患者はさらに差別に追い込まれる危険性が高い。

http://d.hatena.ne.jp/thir/20120415/p1
てんかん患者からの免許はく奪はより深い意味を持つ - Thirのノート

http://d.hatena.ne.jp/funaborista/20120612/1339468790
ライセンス お花畑目指して ふなぼりすたさん

 またあえて譲って規制が実現した場合、下妻らはどのような負担を担う覚悟なのか?
 免許を取得できない不利益は別の方法で保障すればいいのだというのなら当事者にどのような利益を提供するのか?
 ただですら精神疾患のひとつであるアスペルガー症候群ですらも仕事はそれほど多いとは言えない(2012年7月24日障害者雇用に関する厚生労働省の有識者研究会は民間企業などへの雇用義務の対象に精神障害者を加えるよう求める報告書を取りまとめた。厚労省は障害者雇用促進法改正に向け、労働政策審議会などで手続きを進め、早ければ来年の通常国会に改正案を提出する方針である)。
 規制が先行してそれだけの不利益に対してどの代行措置を下妻らは提案しているのか?私は問いかけたい。それなしに規制を行なえというのならそれは感情で被告人を裁く暴挙とどう違うのか?そもそもハローワークでの求人内容を彼らは見たことはあるのだろうか?さらに悩んでいる当事者への冷酷な暴言がネットで横行している。そうしたことにあまりに鈍感と言わざるを得ない。
 あったとしても「清掃」関係とか、製造業の「単純作業」や「クリーニング」業関係、「スーパー」の製品補充作業等だけで、当事者の望む事務系の仕事がないのが現実だ。その事実を踏まえて、建設的提案を行うがいい。遺族の方々に冷水を浴びせて恐縮だが、私は強い憤りを覚えた。

 熊谷史人(株式会社ライブドア 元取締役)がようやく己の無責任の罪を認めて堀江貴文氏の早期釈放を求める運動を起こしたという。
 それなら、熊谷は今すぐ堀江氏にライブドア事件の首謀者のひとりとして何もかも罪を押し付けたことをきちんと謝罪し、私財をすべて提供してもらいたい。私は最終的に堀江氏が承認した事実がある限り罪はあると考えている。しかし、類似した犯罪と比較して明らかに不当に重すぎる刑罰である。釈放は当然であることは誰の目からしても当然だ。
 私は堀江氏と違って新自由主義者ではなく、護憲保守主義者であり、効率主義者に過ぎない。堀江氏のアイデアを否定する必要はなく、もしいただけないのなら代わりのアイデアを出して超えればいいまでのことだ。