2014年6月21日土曜日

どうしてこういうことになってしまったのか~見えない障がいへの支援が必要だ~

ネットの噂で「魔女狩り」サンパウロ州で女性をリンチ殺人

2014.05.24(土)  ニッケイ新聞
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40760

ニッケイ新聞 2014年5月8日

 聖州海岸部グアルジャーで3日、「子供を誘拐し黒魔術の儀式で殺している」という噂を信じた人々からリンチに遭った女性が2日後に死亡するという痛ましい事件が起きた。
5月5~7日付伯字紙によると、犠牲者は33歳の主婦ファビアーネ・マリア・デ・ジェズースさんで、思わぬ噂が、夫と2人の娘と共に平和に暮らしていた彼女の命を奪った。
 発端はフェイスブックの「グアルジャー・アレルタ(警報)」で流れた黒魔術誘拐犯の噂だ。掲載された写真は2年前リオで起きた乳児誘拐未遂犯のモンタージュで、リオ出身のファビアーネさんに似ている。
 ファビアーネさんはカトリック信者で、同市内では行方不明になった子供もいない。だが、子供を二人亡くして双極性障害を患い、思考が飛ぶことがあった。加えて事件当日に彼女が持っていた聖書を黒魔術の本と混同し、誘拐犯だと思い込んだ住民たちは、自分たちで懲罰を下そうとした。
 友人に貸した聖書を受け取って帰宅する途中のファビアーネさんを捕まえた一団は、彼女を縛り上げて殴る、蹴る、髪の毛を掴んで引きずるなどの暴行を加えた。ファビアーネさんは頭を角材で殴られて頭蓋骨骨折の重傷を負ったほか、失神後も頭を自転車で轢く、片手にロープを縛りつけて引きずるなど、暴行はエスカレートした。
 ファビアーネさんは別の住民から通報を受けた警官により病院へ運ばれたが、5日朝死亡した。
 遺族側弁護士が5日に警察に提出したビデオには、女性への配慮などは一切ない容赦ない暴力が振るわれ、失神後に髪の毛を掴んで頭を起こした住民が手を放したために顔が地面に打ち付けられた様子や、顔が変形し声も出ない状況で罵詈雑言を浴びせる相手に何か話そうとした様子も映っている。警察が担架で 運び出す際も最後まで罵声が飛んでいた。
 伯国では民衆が犯罪者を裁く「ジュスチッサ・ポプラール」が話題になることも少なくないが、今回の事件は、確証もないネット上の噂を基に弁護の機会も与えずに暴力が振るわれ、死にまで至らしめたもので、社会全体にも強い波紋を投げかけている。
 6日の葬儀には約200人が参加し、「無実の人を殺した」と抗議のデモも行った。警察はリンチ参加の住民の割出し中で、その内の一人は6日のうちに逮捕された。
※注:伯国=ブラジル、聖州=サンパウロ州


 今回は精神疾患の一つである双極性障がいについて取り上げたい。
 この事件に対し亡くなったファビアーネさんのご遺族に対しお悔やみを申し上げる。この問題は同時に、ネットにおけるヘイトスピーチをも問いかけていると言ってもいい。
 この障がいは 躁(そう)状態(躁病エピソード)およびうつ状態(大うつ病エピソード)という病相(エピソード)を繰り返すもので、私はこの障がいの当事者とも知り合いである。
 私自身もアスペルガー症候群であることを告白した直後にレイシズム批判でヘイトを吐きまくった愚か者レイシストから身の毛もよだつような暴言を吐かれて嫌な思いをしたことがある。つまり、在日コリアンへの差別を見逃していれば次は私たち精神疾患当事者にその餌食は間違いなく来る。
 私はこの犯罪に対し心より強い怒りを覚える。被害者はまさに二重三重に侮辱されたのだ。人間らしく扱われないうえ、野蛮そのものに処されたのだからだ。加害者どもが全部自首し、その罪を死ぬまで償うことを強く求める。 
 事件に関する感想はここまでにしたい。

 だが、私はこの事件の教訓をくみ取り、改善することがファビアーネさんへのできる事だと考える。
 まず、世界中で「見えない障がいリボン」の普及を進めてほしい。高次脳障害や難病、内部疾患、発達障害など、社会で認知されず、福祉政策でも「制度の谷間」に落ち込み、サポートが受けにくい「目に見えない」障害、困難、痛みを持つ人がそのバッチを使い席を譲ってもらうことはありだ。
 たとえば私は目の前でうるさくされると我慢できない。その際にはそのバッチを見せて注意するが態度を改めないなら駅員に抗議するか、次の電車に乗り移るようにしている。馬鹿を相手にする必要はないのだからだ。普段からiPhoneを使って音をシャットアウトするなどしているからだ。
 また、最近ではがんサバイバーも深刻な差別の状況にある。がんであることを告白されたら解雇されるパワハラ被害が後を絶たない。政治がやるべきはマイノリティへの支援ではないのか。だが、政治の仕事だけに任せるなとも私は言いたいのである。
 たとえばがんサバイバーに冷たい企業の名前をどんどん暴露して書き込むのはどうだろうか。こうした通報が積み重なり、ボイコット運動になれば、企業はがんサバイバーや見えない障がい当事者を苦しめる行為をやめるしかなくなる。
 そのためには政治を、暮らしを変えねばならない。環境に冷たいビジネスモデルを行う企業や人権に冷たい政治家や企業を市場から追放することはその中で当然なのだ。
  見えない障がいについても支援が必要だ。私の場合はそれほど求めない。だが、仕事についてきちんと私の障がいの特性を理解する環境で、生活できる程度の給与ならば私はそれ以上の欲は求めない。今の政治はそうしたささやかな思いに答えられているのだろうか、みんなは考えたことはあるのだろうか。
 これができなけば、第二第三のファビアーネさんは間違いなく生み出される。それでいいのだろうか。

 私がそのことを何度も問いかけるのは身内でそのような当事者がいて、それで取り返しのつかない悲劇が起きたからである。
 もう、そうした悲劇は絶対に繰り返してはいけない。