2015年3月29日日曜日

障がい当事者そっちのけの議論が生活者そっちのけなのは明らかだ

ジャーマンウイングスのエアバス機が南仏で墜落-150人死亡か

(ブルームバーグ):エアバス製の旅客機A320が24日、フランス南部で墜落した。乗客乗員150人全員が死亡した公算が大きい。独ルフトハンザ 傘下の格安航空会社ジャーマンウイングスの9525便は巡航高度から急降下しアルプス山脈に墜落した。同機はスペインのバルセロナから独デュッセルドルフに向かっていた。 仏政府によれば、フライトレコーダーの一つが回収されたが、生存者が見つかる望みは薄い。墜落現場は近づくのも困難な険しい地形の場所で、ヘリコプターと地域の専門家が警察当局の捜索を支援している。
フランスとドイツの民間航空当局によればジャーマンウイングス9525便は急降下の後に連絡を絶ち、数分間の急降下の間地上と操縦室との通信は途絶えていた。テロを示唆するような救援要請もなかったという。
捜索に加わった山岳ガイドのジャンルイ・ビートリクス氏は仏BFMテレビジョンに対し、「何も残っていない」と語った。信頼性があって多用されるA320 が安定飛行できるとされる巡航高度で航行中に起きた事故でもあり、調査担当者らは原因の究明を急いでいる。事故が起きたのは日中、天候は良好だった。政治 指導者らは危機対応のため予定を変更。メルケル独首相は25日に現地入りする計画だ。
A320は短距離の路線で多用される単通路型機で、エアバス製では最も人気のある機種。輸送人員数は150人前後で、ジャーマンウイングスによれば乗客144人と乗員6人が搭乗していた。
現地の仏航空管制当局は事故機が3万8000フィート(約1万1600メートル)から5000フィートへと急激に高度を下げたため現地時間午前10時47分に緊急事態を宣言したと、フランス航空局(DGAC)の広報担当エリック・エロー氏が述べた。
ジャーマンウイングスは午前10時53分に同機との通信が途絶えたと、ケルンでの記者会見で説明した。
原題:Germanwings Airbus Crashes in France; Survivors Unlikely (3)(抜粋) Germanwings Airbus Crashes in French Alps With No Survivors Seen

 まず、今回の墜落事故の犠牲者の方々に冥福の念を表明いたします。
 ですが、この事故がとんでもない方向に走っています。そのことも含め、今回かなり厳しいコメントを書かせていただきます。

ドイツ墜落機の副操縦士、会社に病気隠す=検察当局

2015年 03月 27日 21:52 JST
 
[ベルリン 27日 ロイター] - 格安航空会社ジャーマンウィングスの墜落事故で、ドイツ検察当局は27日、故意に機体を墜落させたとみられている副操縦士が会社に対して病気を隠していたことを示す証拠が見つかったと発表した。病気は特定されていない。
デュッセルドルフの検察当局は、アンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)について、「診察内容が記載された書類を押収しており、そこには病気の存在と医師による治療について示されている」と明らかにした。
「同氏が働くことができないとする事件当日も含めた最近の病気の診断書が細かく破られた状態で見つかっており、初期捜査に基づくと、故人が会社や会社の同僚から病気を隠していたという説を裏付けている」とした。
検察当局によると、書類はルビッツ氏のデュッセルドルフの自宅や独西部モンタバウアの実家の家宅捜索で見つかった。

 これで私が不安になるのは、精神に障がいを抱えた人たちへの差別です。
 こういうあほなことをなぜ政治は見逃すのか、これでは社会の活性化にはならないと思います。


△てんかんと生きる:就労の壁/1 病名明かした途端「不採用」
   毎日新聞 2014年04月29日 東京朝刊
   http://mainichi.jp/shimen/news/20140429ddm013040005000c.html
 2012年11月11日午後、東京・新宿駅西口。てんかんを知ってもらおうと患者たちがマイクを握る街頭活動に初めて参加した都内在住のAさん(30)は、緊張しながら出番を待つ間、近くにいた若者の会話を耳にした。
 「てんかんって何だっけ」「あれでしょ、ぶっ倒れるやつだよね」。そのまま通り過ぎてゆく。同じように無関心のまま立ち去る大勢の人たち。その背中を目で追いながら、見えない壁があると感じた。「一口でてんかんと言っても患者それぞれ違うのに、聞いてももらえないんだ」。だが、もっと直接的な壁が、翌年夏に立ちはだかっていた。
 ●「記憶がない」
 最初に「変調」が生じたのは20歳のころ。通っていたデザイン専門学校の卒業制作で椅子をどう作ったか、よく覚えていない。卒業後、日曜大工関連商品の製造販売会社に入社したが、膨大な商品名を覚えられず約1カ月で退社。住宅図面などを作る会社に転職したもののパソコンの高度な機能を使いこなせず、そこも自ら辞めた。以後、雑貨店や料理店など職場を転々。その理由の多くは「不向き」や人間関係だと思っていた。
 23歳の時、母親と犬の散歩中に意識がもうろうとした。数分で元に戻ったが、その間の記憶が全くない。心配した母親が病院に相談し「てんかん」と診断された。でも、納得がいかなかった。病気の自覚はなく、母親もてんかんの発作とは泡を吹いて倒れるものと考えていた。
 2年後、勤め先の和菓子店の店長から「絶対におかしい。病院に行った方がいいわよ」と指摘された。確かに、職場で何をしていたのか覚えていない。以前のことを振り返ると、教えたと言われて記憶にないこともあった。自分の発作は時折短く意識を失うものだとようやく理解した。
 それからしばらく治療に専念した。約1カ月間の検査入院を2回。脳のどの部分が悪いのか分かり、薬の種類や分量を調整してもらった。睡眠不足とストレスが大敵と知り、早寝早起きを心がけた。徐々に調子が良くなってきた3年後、医師から「もっと良くするためにも働いた方がいい」と勧められた。
 12年3月、28歳でアパレル会社の物流倉庫で仕事を再開した時は障害者枠だった。ほどなく患者たちの活動に加わり、翌13年2月に転じた衣料品小売り大手では障害者枠ながら一般社員と同様に接客やレジを任され、自信がついた。ただ、急成長中の会社だったため多忙でストレスがたまり、転職を考えた。家から電車でほど近いフィットネスクラブがフロント職を募集していた。
 ●「何らかの誤解」
 13年8月17日、面接に臨んだ。業務内容や勤務時間を説明され、会話が弾んだ後、「月1回の水曜日は通院のため休みが欲しいです」と病名を明かした。その途端、面接した女性は「あー、ごめんなさい」と申し訳なさそうに話し、症状も確認せず「会社で決まっているから」と不採用を告げたという。帰りの電車内では悔しさがこみ上げ、帰宅してドアを開けた瞬間、出迎えた母親の前で大泣きしていた。
 フィットネスクラブの本部は毎日新聞の取材に「水泳のインストラクターなど(発作で危険を伴う可能性がある場合)はお断りすることもあるが、病名で一律に判断することはない。病名による採否を明文化したものもない」と説明した。その上で、こう補った。「何らかの誤解だと思っているが、(Aさんがそう感じるような対応が)あったと思うので、今後誤解がないように指導していきたい」
 
 約100万人とされるてんかん患者を巡っては、就労を中心に差別や偏見が根強く残る。発作は多種多様で大きな個人差があるにもかかわらず、多くの患者は「なぜ症状に応じて就労の適否を判断してもらえないのか」と感じている。患者が就労できないことによる経済的損失はGDPの0・3%に上るとの東北大教授の試算もあり、米国では患者の就労を「社会経済性の向上」という観点から社会全体の利益ととらえている。就労を望む患者の「壁」を追った。【「てんかん」取材班】=つづく

 
 
私はその話を聞いて、フィットネスクラブの実名を今すぐ公開すべきだと思ったほどです。
 まさに最悪の差別であり、障碍者の可能性を不当に制限し、なめているとしか思えない暴挙です。そのほかにも手術で回復できたのにもかかわらず所属先の大手信販会社を病気を口実に契約を不当に解除された女性、勤務後たった5日で解雇された人など、あまりにも障がいに対する差別はすさまじいではありませんか。こういう馬鹿な企業の実名をどんどん公開し、行政指導を行うことが政府の仕事ではありませんか。
 で、ジャーマンウィングスの事件を今回考えますと、明らかに急成長していたことを踏まえると、完全にマイノリティに対する配慮が欠けているとしか言いようがない実態だったのではないかと思います。ルフトハンザと提携している全日空はスカイマークを買収する暇があるなら今すぐルフトハンザの支援を行うべきでしょう。
 そもそも、今の「アベノミクス」と称するインチキ経済は、すさまじいまでに一部の人への富に集中し、圧倒的多数の人には貧乏を押し付ける歪みです。そんなインチキは通用するわけがないじゃありませんか。
 今後、日本は協同組合を主体にした共存型経済に切り替えていかねばなりません。最後は、内橋克人さんのコラムで締めくくりたいと思います。


自称首相が叫ぶ改革の狙い 対抗勢力を分断、解体 経済評論家 内橋 克人 (2015/2/23)









 今月12日から始まった第189回通常国会は「改革絶叫国会」と揶揄(やゆ)されている。安倍晋三自称首相(以降被告)は45分ほどの施政方針演説で36回も「改革」なる言辞を口にし、各論の冒頭で「60年ぶりの農協改革を断行する」と絶叫した。
 開会3日前、辛うじて合意にたどり着いたばかりのJA全中解体論が「改革断行国会」の目玉に据えられていた。JA全中を協同組合から一般社団法人に変 え、全国におよそ700ある地域農協への全中による指導・監査権を廃止すれば、それで「意欲ある担い手」と「地域農協」が力を合わせ「農業の未来を切り拓 (ひら)くことができる」という。過去、それができなかったのは「JA全中あるゆえ」と誹謗(ひぼう)したに等しい。ほんとうか?

・郵政の次は農協

 「郵政(解体)の次は農協」。事あるごとに筆者はウォーニング(警鐘)を発してきた。新自由主義的改革の次なる標的は「協同組合」、中でも農協に向かうと読んでいたからだ。三つの根拠がある。
 まず農協「改革論」の歴史は古い。「規制緩和万能論」の台頭。それを政治目的化するため歴代内閣がそろって「規制緩和」関連の諮問機関を立ち上げ、「農協」を標的の一つに掲げてきたことだ。2002年12月、第1次小泉「政権」の時代、「総合規制改革会議」(議長=宮内義彦・オリックス会長=当時)が答申最 終案をまとめた。農協について「信用・共済事業を含めた分社化」「農業経営の株式会社化(事業譲渡)」を建議した。時の内閣官房副長官が安倍被告その人で ある。時の政権が世間に対して「大見得(みえ)を切る」のに格好の獲物だった。
 第二に、安倍自称政権(以降安倍一派)の掲げる政策に重要な決定的欠落部分があることだ。筆者は繰り返し指摘してきた。所得再分配、経済を襲う巨大リスク、協同組合への正統な認識、そして社会的共通資本(宇沢弘文氏)の概念――現代社会を担う責任ある政権にとって必須の基軸概念である。その全てが見事に欠落している。
 現規制改革会議・農業ワーキンググループの座長は、去年7月、日本記者クラブで「協同組合間競争」と「株式会社化」が必要だと述べ、「JA全中は巨大財閥」と指弾した。
 国際協同組合同盟(ICA)が協同組合原則に掲げる「協同組合間協同」(第6原則)の精神にはまるで無知とお見受けした。
 第三に「ナショナル・センター」への強い「忌避感」を挙げなければならない。環太平洋連携協定(TPP)反対運動で見せつけられたJA全中の組織動員力 は、かつて国鉄労組解体を真の狙いとして断行した「国鉄解体」の政治決断(中曽根一味)を「官邸に想起させた」と伝えられる。郵政民営化またしかりだ。
 全国農協を束ねる中央組織への忌避の思いが安倍被告の執念となった。「改革」とは何か。政権に抗して国民を動員できる中央組織を分断・解体することであ る。1990年代半ば、新聞・出版物の再販廃止をめぐる公取委の方針を撤回させるため、新聞協会を代表して委員会に参加した筆者には、いまなお身に沁 (し)みるほどの苦い記憶が残る。

・協同組合が標的
 安倍一味にとって次の強力な武器は、農協法で規定されている独禁法適用除外の制度「廃止」である。農協に限らず、協同組合の全てが標的となる。
 権力は「ナショナル・センター」の解体をはかる。体制のいかんを問わず、統治は政権外部に台頭する「ナショナル・センター」を忌避する。ナショナル・セ ンターとは国内全域に強い影響力を発揮する「対抗勢力」のことだ。市場原理一辺倒の嵐の中、空疎な「改革」なる虚言に、これ以上、籠絡され、振り回されて いいはずはない。

<プロフィル> うちはし・かつと
 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。NHK放送文化賞など。『共生の大地』『原発への警鐘』『匠の時代』『始まっている未来』(故宇沢弘文氏との対談集)、自伝的小説『荒野渺茫』(1、2巻)など著書多数。 
 
 

「この道しかない」。この国の「トップ」は今、全国各地で声を張り上げる。長く続くデフレから脱却するためには、自らの名前を冠した経済政策しかないのだと。だが鎌倉に住む経済評論家から言わせれば、「国民をなめている」。なぜなら「安倍一味の経済政策は『国策フィクション』」だからだ。
 内橋克人さん(82)はおもむろにペンを持ち、紙に数字を書いていく。「74兆円 70兆円」
 アベノミクスの第1の矢と言われる金融政策。日銀は2013年4月、「異次元」と評される大規模な金融緩和に踏み切った。市場は歓迎し、先行きへの期待感 から急速に円安株高が進んだ。「国民は、金融緩和で市場に金がジャブジャブ流れたと思っている」。市場に金が出回れば、株価が上がり、資産価値も上がる… と。だが、それは「『これからもっと良くなる』と国民が“期待”を持たされているだけだ」。
■天空回廊
 内橋さんは、こう説く。13年3月末からの1年間で、日銀が国債を買い上げて供給した通貨(マネタリーベース)は74兆円増えた。だが、民間の金融機関が日銀 に設けている口座の当座預金(日銀当座預金)も70兆円増えた。つまり差額の4兆円は市場に流れたが、70兆円は個人や企業への貸し出しに回らず、口座に 眠ったまま。ブタ積みという。「マネタリーベースの額をみれば、4兆円など微々たるものだ」
 それでも、まだいい。少額とはいえ、市場に金が流れたのだから。内橋さんはその下に、もう一つ数字を書き加える。「118兆円 120兆円」。今年10月末までの1年半をみると、マネタリーベースは118兆円増加。だが日銀当座預金は120兆円も増えた。「金融緩和と叫びながら、実体経済に金は流れず、逆に市中から2兆円の金を吸い上げた計算。これでどうして景気が良くなるのですか?」
 国民は幻想を見させられている。「安倍被告の周囲にいる経済ブレーンは、『市中に金がジャブジャブ流れているというイメージを市場に送り、国民の夢をあおれば経済は好転する』と思っている。人工インフレ論者、つまりリフレ派の仕掛けたトリックです」
  政府、日銀、金融機関で回る巨大マネー。国民の頭の上をめぐる「天空回廊」。富裕層が富めば、貧困層にも自然に富が滴り落ちるという、政府の説く「トリク ルダウン」などはない。「雨は、横の樋(とい)にたまり、縦の樋に移って、大地に滴り落ちるもの。だが安倍一味はその縦の樋を途中で切断し、そこに栓を詰めた」。あふれるほどの水がたまるのは上部(大企業)だけ。そこでも内部留保という名の氷づけが起きている。「アベノミクスには、政権がなすべき最大のミッションの『所得再分配』政策が完全に欠落している」
■思い込み
 実体経済に資金が回らない、フィクション の“効果”は当然、長くは続かない。消費増税後、国内総生産(GDP)速報値は2期連続でマイナス。黒田東彦自称総裁は追加の金融緩和を発表し、安倍被告は消費税率10%への引き上げの先送りを決めざるを得なかった。それでもなお、自らの経済政策に自信を持つ安倍被告。「気付いていないのでしょうね。『アベノ ミクスは大成功』と本気で信じ込んでいる。周囲を取り巻く思想的同調者の考えを“民意”と錯覚している。安倍被告の思い込みと、真の民意との乖離(かいり)は ますます大きくなっていく」
 “思い込み”の激しさは言動にも表れているとみる。「世界経済回復のためには、3語で十分で す」。昨年9月、ニューヨーク証券取引所でスピーチした安倍被告は、自信たっぷりにこう続けた。「Buy my Abenomics」(アベノミクスは買い だ)。内橋さんは指摘する。「米国のレーガン政権の経済政策『レーガノミクス』も、英国のサッチャー政権の経済政策『サッチャリズム』も、メディアや後世の人々が名付けたもの。2人とも自らそう叫び回ったわけではない。自己顕示欲の違いでしょうか」
■符合
 有権者が気付くべきことは他にもある。厚生労働省は10月31日、年金積立金の投資配分を定める資産構成割合(基本ポートフォリオ)の見直しを認可した。その 内容は国債など国内債券を大幅に縮小させ、よりリスクの高い株式の割合を国内外合わせて50%まで引き上げるものだ。同じ日、日銀は追加の金融緩和を決定。国債の購入額を年間50兆円から80兆円に拡大すると発表した。
 厚労省管轄の年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)が売却したい国債は30兆円分。日銀が増額したのも30兆円。「この二つは、ぴったり符合している」。株式市場を活性化させるため、国民の年 金を活用しようとしているのではないか。内橋さんは憤る。「再びリーマン・ショックが起これば、国民が年金を手にすることはできなくなる」
 声を上げても詮ないことです-。東日本大震災の被災地で講演した際、被災者がこぼした一言が今も胸を締め付ける。だが、それでも声を上げ続けなければ、と 感じている。「安倍一味がいま何をしているのか。トリックやレトリックに惑わされず、有権者は徹底的に見抜かなければいけない」
 うちはし・かつと 1932年7月生まれ。神戸市出身。神戸新聞記者を経て経済評論家。著作に「匠(たくみ)の時代」「原発への警鐘」「共生の大地」など。「鎌倉九条の会」「さようなら原発1000万人アクション」の呼び掛け人を務める。



【神奈川新聞】


「F・E・C」自給圏自立を 経済評論家・内橋克人氏

・権力が解体ねらうナショナルセンター
・使命共同体の役目果たせ
 地域のJAが立ち上げた「ファーマーズマーケット」が賑わっている。ひ ろいスペースの施設内を大勢の家族づれがゆったりと歩く。一束(ひとたば)の野菜を間に生産者と消費者の会話が弾(はず)む。コミュニティがそこに生まれ る。何よりも店の「ネーミング」が楽しい。この七月、開店したばかりの『きてかーな』は一般応募五百二十件のなかから選ばれた。「来てくださいよ」「い らっしゃいませ」の意である。
 合併二十周年を迎えるグリーン近江農業協同組合が二年がかりで立ちあげた。琵琶湖東岸に悠然とひろがる自然のなか、ひろい駐車場の前でヒマワリが満開だった。
人の温もりが
「市民資本」を育てる

 各地に同様の施設が多数ある。『寄(よ)りん菜屋(さいや)』『幸(こう)楽(らく)市(いち)』『母(かあ)ちゃんハウスだぁす こ』・・・。『寄りん菜屋』とは「まあ、ちょっと寄ってらっしゃいませよ」の手招きである。人の温もり、人なつっこさ、はずむ会話の湯気が人を包む。
 どこへ行ってもネーミングの妙に魅せられる。自然から与えられた恵みの『お裾(すそ)分(わ)け』と呼ぶ施設もあった。スーパー、コンビニには求むべくもない宝物がある。
  『きてかーな』では五百人近い地域の農業者が直接出荷する。その場で味見(あじみ)できるレストランもある。何よりも使命感が違う。安全・安心はむろんの こと地域の食文化を守ろうとする強い意思だ。「農が枯れれば命も枯れる」と未来世代に引き継ぐ。あの「金目(かねめ)でしょ」に見た「強者の卑しさ」とは 無縁の社会的使命・経済的使命・商品的使命がきちんとうたわれている。

◆権力が解体ねらうナショナルセンター
 地域に生きる誇り高い人びとの参加意識が「市民資本」である。「協同組合」を措いてほかに代替可能だろうか。地方と呼ばれて久しい地域社会が変わろうとしている。ファーマーズマーケットは胎動を証明する一例に過ぎない。
  体制のいかんを問わず、統治は政権外部に台頭する「ナショナル・センター」を忌避する。ナショナル・センターとは国内全域に強い影響力を発揮する「対抗勢 力」のことだ。かつての国鉄解体は「国労」というナショナル・センター潰しが狙いだった。役割を果たした当の政治家が後に明かした。「郵政」も同様だ。折 しも台頭した市場原理主義のなか、すべてに「構造改革」の名を冠したという。真の狙いは外からは見えない。分厚な靴底の裏側に貼り付けた。
 昭和の初め、私たちの「普通選挙権」も「治安維持法」とのセットだった。相互矛盾の両法をセットに組んだのは議会ではなく枢密院である。議会制民主主義が理念通り機能するのを恐れてのことだ。対抗思潮をはらむナショナル・センターは分断、解体に追い込む。君主政治であろうと寡頭政治であろうと民主政治であろう と、変わるところはない。
 女性史家バーバラ・W・タックマンが歴史的事実の徹底検証を経て到達した歴史の「法則」である。『愚行の世界史』に詳しい。(文末注

◇   ◇

「同調勢力」のなかにも離反懸念の兆しあるものは芽の内に摘む。「TPP反対全国運動にみせたJAの動員力、反グローバリズムの思想性が虎の尾を踏んだ。 国民運動に進むことを恐れた」と元閣僚の某氏が内幕を明かす。JA全中解体論に至る「モヤモヤッ」、すなわち官邸にきざした、ただならぬ空気を不思議な言葉で表現した。
 世界経済フォーラム年次総会の基調講演で安倍晋三被告は「いかなる既得権益といえども私の『ドリル』から無傷でいられるものはな い」と見栄を切った。穿(うが)つべき既得権益とは何か。農業、医療、労働、教育だという。2010年3月に終結したはずの「規制改革会議」は第二次安倍一味発足そうそう息を吹き返した(2013年1月)。他のさまざまな有識者会議、諮問機関と同様、規制改革会議もまた人事を介して安倍被告の「アンダー・コン トロール」(制御下)にある。
 「JA全中解体」論者とされる金丸恭文・自称「規制改革会議農業ワーキンググループ座長」(以降被告)は、7月23日、日本記者クラブで、「(JA全中を)廃止する」との文言は最終的に答申から削除されたが「いかようにも読める」と語った。
  「(JA全中解体の)主張が後退したわけではない」の意である。JA全中を指して「強権をもつ巨大財閥」と定義づける金丸被告は農業者ではない、流通産業の ITコンサルタントである。この日、金丸被告は「協同組合間協同」でなく「協同組合間競争」、または「協同組合の株式会社化」が望ましいと明言した。「攻めの農業」の成功例を多く見てきたと胸をはった。世界に普遍的な「協同組合原則」に無関心と見受けた。
 JA全中の糾すべき体質は数多く指摘できる。が、それは金丸被告ら規制改革会議の指摘とは次元を異にする。

経済評論家・内橋克人氏

◆使命共同体の役目果たせ
 JAは選挙に際して常に自民党候補を強く推してきた。自らが一役買って成立させた「権力」から「レーゾン・デートル」(存在理由)を全否定され る。危機は去っていない。JA全中が腰の引けた政治的妥協で取り繕おうとすれば、それはわが国「協同組合運動」全体を「冬の時代」へと連れ込む誘拐者役となろう。
 安倍一味の経済政策に決定的な欠落部分がある。第一に「所得再分配」、第二に「不均衡経済」の巨大リスクの認識、第三に「協同組合」への正統な評価である。それら深刻な欠落に気付かぬまま、リフレ派にすべてを委ねた。
 国際協同組合年全国実行委員会の最高顧問を引き受けられた経済学の泰斗・宇沢弘文氏の「社会的共通資本」に無知、無関心であることも特徴だ。
 「穿つべき既得権益」として安倍一味の挙げる農業も医療も労働も教育も…それらすべてが「誰のものでもない、皆のもの。社会的共通資本」と理論体系を築き、実践活動にも身を挺した宇沢氏は、「TPPは社会的共通資本を破壊する」と断じた。
 希有の経済学者が逝去された。

◇   ◇

「人が人らしく生きていける、そのための社会的共通資本」の概念は安倍一味とその同調者の眼中にはない。それで地域創生は可能なのか。その政権のもとで私たちは自主・民主・自立・自律・参加の地域コミュニティを築かねばならない。分断と対立と競争、そしてレース・ツー・ザ・ボトム(どん底へ向けての競争)から抜け出る道を模索しなければならない。すべての道は協同組合と「同心円」である。
 『きてかーな』と同じ滋賀の地で「菜の花プロジェクト」は循環型社会モデルを生み、全国にひろげた。長年、筆者の提唱してきたFEC自給圏の形成である。食(F)、エネルギー(E)、ケア(C)の自給圏形成は、NPOなど多くの市民資本との協同によって全国の地域社会で進む。
 いまICA(国際協同組合同盟)は「協同組合原則」無視の独裁者・安倍一味に深刻な懸念を表明した。再びのリーマンショックが到来するなら、アベノミクスと称するアホノミクス(同志社大学大学院教授の浜矩子氏が指摘されています)で耐えることはできない。第三の共同体「使命共同体」としての「協同組合」の足腰を強く鍛えるほかに道はない、そう知るべきときではないか。
)『愚行の世界史』(“The March of Folly:From Troy to Vietnam”1984。邦訳大社淑子訳・朝日新聞社刊)。