■スカイマーク経営破綻の裏側

スカイマークが1月28日、自力再建を断念し民事再生法の適用を東京地裁に申請した。負債総額は710億円。社長だった西久保愼一は責任をとって辞任し、取締役の有森正和が新社長に就任した。
 スカイマークによると、2012年6月から、エアバスA330型機合計10機のリースを受けて利用してきたところ、14年1月ごろから始まった急激な円安の進行により、これらのドル建てのリース料の支払いが大きな負担となり、加えて、競業他社との競争の激化、想定を超える円安の進行、燃料費の高止まりなどの要因により、業績は著しく悪化。14年3月期において18億4500万円の当期純損失を計上した。
 そこで業績を改善しようと、不採算路線の休止などを通してコスト削減を進めたが、徹底的なコスト削減ができず、15年3月期の第2四半期でも57億4400万円の当期純損失を計上、監査法人の四半期レビュー報告書では「継続企業の前提に疑義がある旨」と付記された。
 さらに11年に2月18日にはエアバスからA380型機を計6機購入する契約を締結。売買代金を巡る交渉が難航し、14年7月25日に契約を解除。7億ドル(約830億円)の解約違約金の支払いを求められた。
 「当社としては自社再建は極めて困難であり、当社事業の再生のために資金支援等を受けることが不可欠であるとの判断に至り、所要の手続きを経た上で、インテグラより資金支援、収支改善支援及び運営支援等を受けることといたしました」(スカイマークのニュースリリースより)
 スカイマーク倒産の裏で、こんな話が出ている。
 「11月21日にJALと共同運航交渉に入ったマスコミ嫌いの西久保慎一社長が会見に姿を現し、発表したのです。ところがこれに国土交通省が横やりを入れ、 『ANAを加えた3社か、ANA単体での共同運航しか認めない』といってきた。どうやらANAびいきの国会議員から国交省に圧力がかかったようです。それ で決まりかけていた交渉が長引き、資金繰りがつかなくなり、民事再生法の適用を申請せざるを得なくなった。もし共同運航が11月に決まっていれば、搭乗率 をあげて資金繰りにメドをつけることができたかもしれないし、出資者の経営に対する不安を払しょくし支援を取り付けることもできたかもしれない。自力再建 の可能性が出てくればエアバスも違約金の引き下げ交渉に応じたかもしれない。国交省も罪作りなことをやったと思います」(業界関係者)

■3社共同運行に積極的ではないANA

西久保はANAが資本提携を前提とした共同運航を求めていると考えていたのでANAの参入には難色を示していたが。西久保はしぶしぶ昨年の12月15日、ANAを交えた3社交渉をスタートすることを決断した。ところが3社交渉がなかなか進まない。
 「ANAにとってJALと共同での支援ではまったくうまみがないからです」(航空業界に詳しいジャーナリスト)
 ANAは以前から新興航空会社を囲い込み(いずれも乗っ取り)、JAL包囲網を構築している。
 すでに羽田-千歳を運航しているエアドゥや羽田-福岡運行しているスターフライヤー、羽田-宮崎のスカイネットアジアなど主だった新興航空会社には出資や役員派遣、コードシェア(一つの航空便に複数の航空会社の便名を付与して運航すること)を進めている。JAL囲い込みというのはいったいどのようなものなのか。
 航空会社が乗客を増やしていくためにはライバルとの価格競争で勝たなければならない。しかしJALやANAなど大手航空会社が新興航空会社よりも料金を下げると、新興航空会社の経営は行き詰ってしまう。だから国交省は大手航空会社は新興航空会社の競争環境を圧迫しないよう監督している。 JALの会社更生法適用が決まった当時、JALへの規制はさらに厳しくなったという。運賃の値下げ競争となれば、会社更生法で負債などが一掃されたJAL の方が圧倒的に有利だからだ。
 「JALは更生会社であるから新興航空会社はもとより、ANAよりも料金を下げてはならないと国土交通省が通達してきました」(アナリスト)という。いわゆる「いたずら通達」(いたずらにJALは料金をさげてはいけないという意味の通達)だ。JALが再生し、再上場したことで、この「いたずら通達」はなくなった。
 「そこでANAはJALが値下げをしようとすると、息のかかった新興航空会社に反対の声を上げさせ、JALの価格戦略を阻止してきた」(アナリスト)
 ANAはスカイマークを取り込めば、JAL包囲網が完成する。JALとの共同運航では囲い込みにはならない。3社共同でやるなら、スカイマークが破たんし、JAL、ANAに再配分される羽田発着枠をもらった方がいい。
 「国交省は14年3月、羽田空港の発着枠便についてはANAに11便に対して日航に5便と傾斜配分され、今期の大幅収益増につながっている。仮にスカイマーク が破たんし、発着枠がJAL、ANAに配分されれば、また傾斜配分になるでしょう。だから3社共同でやるなら、むしろ破たんし、発着枠を分けてもらった方 がANAにはメリットが大きい。仮に発着枠は新興航空会社枠だということになってもスカイマーク以外はANAの影響下にある会社。だからANAは3社の共同運航には積極的ではなかったのではないか」(アナリスト)

■再建のカギを握る外資2社の思惑

結局スカイマークは破たんし民事再生法の適用を申請した。
 スカイマークの経営陣は会見で「大手のANAホールディングス、日本航空(JAL)のどちらにも属さない第3極の立場を維持したい」と語っているが、本当に 第3の極として再び復活することができるのか、それともANAの軍門に下るのか。スカイマークに民事再生法が適用されるかどうかは、2月4日の債権者集会で決まる。そのカギを握るのはエアバスと米航空機リース大手イントレピッド・アビエーション2社だ。債権者会議の議決権は出席した議決権者の議決権の総額 の2分の1を超える議決権を有する者の同意できまることになっている。
 「エアバスは違約金だけで最大7億(約830億円)。これは確定債権ではないため、負債総額の710億円には含まれていない。これが債権として認定されれば、エアバスは債権総額の2分の1を超える最大の債権者。仮に全額認められないとしてもイントレピッド・アビエーションとともに大きな影響力があることは間違いない。
 いずれにせよ、スカイマーク再生劇の第2幕が間もなく開く。(文中敬称略)
(ジャーナリスト 松崎隆司=文)