テレビ局というところは、視聴者の声がなかなか届かないところなのだろうか。今年も夏の風物詩となった 「24時間テレビ・愛は地球を救う」(日本テレビ)にチャリティランナーが登場する。しかし、視聴者はそのうさんくささをとっくの昔に感じている。「アイ ス・バケツ・チャレンジ」もそうだが、2014年の夏はもっと“チャリティ”について考えるべきではないかと思えてならない。

■チャリティ番組のギャラが1000万円という現実

「24時間テレビ・愛は地球を救う」(以下、24時間テレビ)の出演者にギャラが発生しているのは有名な話で、昨夏には週刊誌『FLASH』が24時間テレビに出演するタレントのギャラを掲載した。
 その記事によると、チャリティランナーは1000万円、総合司会は500万円という高額な報酬が支払われているという。確認しておくが、24時間テレビは「チャリティ番組」だ。
 また24時間テレビの予算は総制作費4億2000万円で、CM収入合計が22億2750万円。そのうち出演者のギャラと制作費を除いて、赤字にならない範囲 で寄付に回すとも書かれていた。そうやって作られた番組が昨年は18.1%という高い平均視聴率をマークして、15億4523万円という寄付金を集めている。
 そして、今年はTOKIOのリーダー、城島茂氏が番組の看板企画であるチャリティランナーに選ばれ、101kmマラソンに挑戦する。 チャリティランナーは毎年、テレビ局側が著名人の誰かを指名するかたちになっているが、なんだか“罰ゲーム”のようで筆者は好きではない。ちなみに城島は これまでいちばん長く走った距離が、中学1年時の校内マラソンで1.5km。一時は100kmで決まりかけたそうだが、本人の強い希望で101kmに決定 したという。
 毎回、思うことだが、24時間テレビのチャリティランナーは仕事と報酬のミスマッチが起きている。チャリティ番組とはいえ、総合司会はプロとしての業務になるためギャラが必要になるのは納得できる部分があるが、走りのプロフェショナルではないタレントに“走る”ことで高額報酬が発生するのは、スポーツライターとしては違和感がある。ちなみにアメリカやフランスのチャリティ番組に出演するタレントは、世界的に有名なアーティスト も全員ノーギャラだ。
 城島氏は20年以上も芸能活動をしてきたのに、わざわざ不得意なランニングでチャリティ番組に参加することはないと思 う。彼にしかできないことで、チャリティ活動をすることのほうが、100倍意義があるし、ファンにもその思いが伝わるはずだ。芸人なら芸で、歌手なら歌 で、一般人にはできないプロとしての“技”で、多くの視聴者に「チャリティ」の真心を伝えるべきだと思う。
 チャリティの“貢献”とは何を意 味するのだろう。仕事における“価値”とはなんだろうか。ほかの人にはできないようなミッションを成功させるならば、そこに高額な報酬が発生するのは当然 だ。しかし、さほど難しくないミッションなら報酬は少なくなる。健康な40代が24時間で101kmを走る(歩く)ことは、それほど難易度の高いものではない。
 東京マラソンを放映(2年に1回)している日本テレビの上層部は、いいかげん、走ることは“罰ゲーム”ではなくなっていることに気づ くべきだ。シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子が「24時間で100曲を熱唱します」と言って視聴者が喜ぶだろうか。40代のアイドルが24 時間で101km走ることは、これぐらい無為な企画だということを知ってほしい。

■盛り上がる、100kmマラソン熱

近年のランニングブームもあり、100kmマラソンの人気は高まっている。たとえば、毎年6月に北海道で開催されるサロマ湖ウルトラマラソンは、100kmの部の3550人の定員に応募があった(先着順。制限時間13時間、参加料は1万7000円)。
 10月に20回目を迎える四万十川ウルトラマラソンは100kmの定員1650人に対し、4863人が申し込み、抽選となった。こちらは制限時間14時間で、参加費は1万8000円。参加費の一部が四万十川の清流保全のために寄付される。
 24 時間マラソンで101kmに挑む城島はTOKIOのメンバーでは最年長の43歳。その年齢を心配するファンもいるようだが、市民ランナーの世界では40代前半はいちばん充実している時期でもある。100kmマラソン完走者のボリュームゾーンは40代だ。制限時間などを考えると、城島氏が取り組む101km というマラソン(ウォーク)は涙を誘うべきものではない。試験勉強をしてこなかった人が、直前に徹夜して頑張っているのを応援している構図に似ている。し かも、そのご褒美は高額ギャラだ。
 チャリティ番組において、自分の意思で走るならギャラは不要だと思うし、反対に参加費(寄付金)を払うべきだろう。徹底したサポートつきで、ゴールには著名人が迎えてくれる出場枠「1」の超狭き門。エントリー費は高額にしてもいいと思ってしまう。

■どうせなら、本気の24時間マラソンが見たい

チャリティランナーに城島を起用したことについて、日本テレビの道坂忠久「総合」プロデューサーは「日本中が応援したくなる人。40代の代表として、元気と勇気を 与えてくれるのでは」と話している。TOKIOが今年、デビュー20周年というのも理由のひとつらしい。城島氏の人柄はすてきだと思うし、大役の人選とし ては悪くないが、視聴者の意見が反映されているとも思えない。それではどうしたらいいのか。絶対に盛り上がる方法を考えてみた。
 もし本気の 24時間マラソンを視聴者に届けたいなら、川内優輝(埼玉県庁)にオファーしてほしいと思う。川内は公務員規定で出演料を受け取ることができないわけだし、日本トップクラスのランナーが本気で走るとどうなるのか。そこにはただの(練習不足の)タレントが走る姿とは、まったく違う光景が見られるはずだから だ。
 また、有名無名を問わず公募制にするのはどうだろう。「エントリー費」(個人の寄付金)と「24時間で走る目標距離」を宣言してもら い、「応募の理由」も発表。そのチャレンジに賛同した人が寄付をして、いちばん寄付金を集めた人にチャリティランナーとして番組に登場してもらうのだ。
 有名人が多く参戦すれば、AKB総選挙のような盛り上がりが期待できるだろう。ギャラがかからないどころか、スタート前から多くの寄付金が集まり、視聴者が見たい人も登場させることができる。視聴率も自然と高くなり、さらに多くの寄付金を集めることができるはずだ。
 もちろんコースは秘密にするのではなく、400mトラックや神宮外苑などの周回コースにして、多くの観衆が見守る中で走ってもらうのがいいだろう。その走りに感動した人がさらに寄付金を払ってくれるだろうし、たくさんの声援がランナーの力になるからだ。
 24 時間テレビのチャリティマラソンは1992年にスタートして、過去22組のランナーが挑戦している。ゴールシーンの瞬間視聴率が40%近くまでハネ上がる ことを考えれば、番組作りとしては成功しているといえる。ところで、24時間テレビで集まった寄付金がなにに使われているのかご存じだろうか。「アイス・ バケツ・チャレンジ」もそうだが、目の前のパフォーマンスに流されて“中身”を確認しないで寄付を行うのは賢者の選択とはいえない。
 世の中には寄付金を必要とする人や団体がたくさんある。でも、僕らのポケットの中には、限られたコインしかない。そのわずかなコインを世の中のためにどう使うのか。自分自身で“優先順位”を設けて、清く正しく、チャリティに参加していただきたいと思う。