2014年9月16日火曜日

震災以降、移住先として急浮上した岡山県とは?(The Page 2014.7.20-27)

 今回は東日本大震災のために移住を余儀なくされた方々への情報を提供する。

震災以降、移住先として急浮上した岡山県とは?(上)- THE PAGE(2014年7月20日07時00分)

少子高齢化が年々加速する現代日本において、地方の「人口流出」は深刻な問題だ。一方で、「田舎暮らし」や「第 二の人生」を求めて都市部から地方に移住を希望する人々は増加傾向にある。地方自治体はそうしたニーズに応えるべく、支援活動に力を入れ始めているが、一 時的な経済面での援助だけでは定住に結びついていないのが現状のようだ。そんな中、意外な県が移住先として注目を集め、着実に定住者を増やしているとい う。中国地方の岡山県である。
 全国における岡山県の認知度は決して高いとは言えず、県名だけではイメージが湧かないという方も多いかも知れない。ところが、東日本大震災以降し ばしばメディアに取り上げられ、じわじわと認知度が高まってきている。東京・有楽町にある「ふるさと暮らし情報センター」の利用者を対象にしたアンケート で、岡山は“住みたい県”として2012年2位、2013年3位、と連続して上位にランクイン。雑誌『いなか暮らしの本』(宝島社)の読者対象アンケート をもとにした「移住したい都道府県ランキング」でも、2012・2013年と連続して4位となり、人気の高さがうかがえる。震災前の2011年にはいずれ もトップ10圏外だったというから、大躍進といえるだろう。

 実際のデータを見ても、総務省が公表している住民基本台帳人口移動報告によ ると、東日本大震災後の2011年は+605人、2012年は+404人と2年連続で「転入超過」(他都道府県からの転入者数が転出者を上回っている状 態)を記録。ちなみに震災前の2010年は-2084人である。岡山県が「転入超過」に転じたのは1997年以来14年ぶりのことで、東名阪への人口集中 傾向が続く中での「転入超過」は、47都道府県中11都道府県のみ。その後、2013年には-723人の「転出超過」に落ち着いてはいるが、このデータか らは被災地や周辺地域からの短中期的な避難先として岡山県を選んだ人たちの存在が浮かび上がってくる。また、復興庁が公表している避難者数のデータに着目 すれば、岡山県への避難者は2011年7月の420人から2014年6月現在の1113人と、増加傾向にあることも見てとれる。
 データが示す移住者数は落ち着いてきたとはいえ、依然として岡山への移住希望者からの相談件数は多い。岡山県や岡山市など、行政が主催する東京・ 大阪での移住説明会には毎回50組から100組ほどの来場があり、多いときでは200組近い相談者を迎えるほどの盛況ぶりだ。しかも、大々的な告知をせず とも、ある程度の来場者がコンスタントに見込めるうえ、ネットなどで情報収集をしてから来場するなど、本気で移住を考えているケースが多いそうだ。最近で は来場者の相談内容が、住まいや就職など、より具体的なものになってきているというのも興味深い。

 これほどまでの岡山人気、その背景に は何があるのか。行政の窓口として移住に関する相談を受け付けている岡山市役所の移住・定住推進室の佐川亮太さんによると、「岡山市に限って言えば、東京 都を中心とした首都圏から自主避難の意味合いで移住してくる人が多い」という。前述の説明会で実施したアンケートでは「岡山市を移住先として検討している 理由」として、「災害が少ない」ことが28.7%と最も多く、次に「温暖な気候」が26.6%、続いて「交通網や医療の充実」、「生活の利便性」などが挙 げられた。また「少数派の意見として」と前置きした上で、県南地方は原子力発電所から遠いこともメリットとする声もあるそうだ。確かに、隣接する各県に原 発がなく、最も近い島根原発も中国山地のガードのおかげで比較的影響が少ないという説もある。子育て世代にとっての「放射能の影響」は、重要な検討事項の 一つのようだ。次回は、民間の支援団体の活動や移住者への取材を通じ、岡山移住の実態にせまってみたい。


移住先として人気の高まる岡山県。実際の移住希望者や先輩移住者はどのような人々なのだろうか。前出、岡山市役所 移住・定住支援室の佐川さんによると、説明会に来る移住希望者の多くは、もともと岡山にゆかりのある人たちではなく、(岡山が)全く未知の土地で、訪れた ことさえないというIターン組が大多数を占めるそうだ。特に働き盛りの30・40代からは、震災後に価値観がガラリと変わり、 “命と家族を守る”ことを最優先に考えて移住を決意したという声が多いという。それまでの勤務先で働きながら転職活動を進める父親を首都圏に残して、健康 を心配する母親と子どもが先に移り住むケースもあるといい、子育て世代が抱える環境面および健康面での悩みの深刻さがうかがえる。

 実際に移住してきたという方のケースを見てみよう。子育て真っ最中の主婦、Y・Nさんが埼玉県から移住したのが2012年の3月のこと。 震災直後は子どもの健康が心配で、買い物に出かけても何も買えずに帰ってくることがよくあったという。産地表示を見ると東日本産のものがほとんどで、手が 出なかったのだそうだ。そんな彼女が移住に踏み切るまでにはそれほど時間はかからなかった。友人が複数おり、何度か訪れたことがあった岡山を選んだのは、 ある意味自然な流れだったのかも知れない。支援団体の協力もあって早々に住まいを見つけることができ、現在では家族ともども岡山での暮らしにもなじんでい る。移住者の友人同士が集まると、「スーパーで地元産の野菜などを気兼ねなく買えるのが何よりも嬉しい」といった話題で盛り上がるそうだ。

 Y・Nさんが住居探しの際に協力を仰いだというのは、民間のボランティアにより運営されている任意団体である。東京・大阪での説明会にも幹部メ ンバーが駆けつけ、移住希望者の生活面での相談を受け付けている。『おいでんせぇ岡山』や『子ども未来・愛ネットワーク』、『岡山盛り上げよう会』など、 複数の団体が相互連携しているほか、県や市などの行政とも協議会を通じて情報共有するなど、バックアップ体制がしっかりしているのが特徴だ。

こうした団体の主宰者の多くが「先輩移住者」であり、自らの経験を活かして後進の手助けを善意で行っているという。移住者支援団体『岡山盛 り上げよう会』の発起人である佐藤正彦さんは、2012年の7月に横浜から移住。岡山を選んだのは、交通アクセスの良さと、生活のしやすさが魅力だったそ うだ。「都会過ぎず、田舎すぎない街の規模がちょうど良い」と佐藤さんは語る。とはいえ、親戚や友人もいない中、手探りで始めた移住計画。中でも“住まい 探し”は困難を極めた。自身が経験した苦労を教訓に、これから移住して来る人たちのために手助けをしたいとの考えから、支援団体の設立を計画。2013年 1月の立ち上げから約1年半、現在ではコアメンバー7人ほどで運営しており、希望者に個別に物件を紹介している。

岡山県および岡山市が開催している説明会の特徴は、こうしたボランティアによる支援団体の充実にある。行政だけでなく、民間の住宅情報サービスや 転職サービスの会社が一同に会し、移住を考えている参加者の一番の不安である就職先や住宅の確保などについて細かな相談ができるところだろう。まさに“か ゆいところに手が届く”、支援内容の濃さが移住の準備を一気に加速させる要因となっていることは間違いないだろう。上編の冒頭のアンケート結果で上位にラ ンクインした長野県、山梨県、福島県、千葉県は、いずれも自治体が支援センターを設け、移住相談や就職相談ができるセミナーを開催している。希望者にとっ て移住後の現実的なプランを描けることが、計画を実現させるための大きな後押しになっていると言えそうだ。