2018年7月18日水曜日

そもそも、保護されるに値するコンテンツを世の中に送り出してきたのか

「漫画村、刑事告訴している」 講談社が明らかに これまで採った対策は
2018/04/27 18:24ITmedia NEWS47
 政府が「漫画村」など海賊版3サイトについて、ISPに自主的なブロッキングを促す緊急対策を決めたことが、波紋を呼んでいる。「ブロッキングという法的根拠のない手段を求める前に、権利者はどこまで対策したのか」「出版社は、漫画村を刑事告訴していないのでは」など、疑問の声も上がっている。
 講談社によると、漫画村への刑事告訴の手続きは完了しているという。漫画村に近いとみられる人物の名前が昨年夏時点で個人ブログに掲載されたり、NHKが今年4月、関係者に取材するなど、個人やメディアが漫画村の“正体”に迫っているが、捜査に当たっている警察は、現時点で摘発できていないようだ。
 講談社は漫画村に対して、刑事告訴だけでなく、削除要請などさまざまな対策を採ってきたという。同社広報室長の乾智之さんに、詳細を聞いた。

●「数え切れないほど削除要請してきた」「刑事告訴、行った」
――「漫画村」に対して、これまでどのような対策を採ってきたのか。
 数え切れないほどのテイクダウン要請・削除要請を行ってきた。「漫画村」のサイト本体や、サイトをホスティングしているサーバ、CDNのCloudflare、サイバーロッカー(漫画コンテンツなどを保存しているストレージサービス)への削除要請は、国内外を問わず行ってきた。だが、すべて無視されている。
 漫画村に限らずだが、著作権侵害コンテンツのパトロールとテイクダウン要請は、講談社だけで月に1万数千件、年間17万件出している。
 DMCA(米デジタルミレニアム著作権法)に基づき、Googleに対して、検索結果から削除するよう要請も行っている。Googleはいったんは削除に応じるが、すぐに戻ってしまい、「漫画村 作品名」で検索すると、検索結果に表示される状態がずっと続いていた。Googleが戻していたのか、漫画村がすぐURL変えるなど対応していたのか分からないが。
 漫画村に限らず、海賊版サイトについては、発信者情報開示請求や閉鎖の仮処分申請も行ってきたが、成功していない。司法手続きに時間がかかり、判決が出る頃にはサイトのURLが変わったり、閉鎖したりしているためだ。海賊版サイトはいったん閉鎖されても、そのデータを持って別のサイトに移行しているようだ。2~3大勢力があるとみている。
――漫画村について、刑事告訴は行ったのか。
 国内では刑事告訴の手続きを完了している。捜査の都合上、時期は明らかにできないが。
 海賊版サイトは200~300あると言われる。すべてのサイトを刑事告訴するのは難しいが、目立つものについては常に、都道府県警と連携し、刑事告訴を含む捜査協力を行っている。
 海外でも、海賊版サイトの刑事告訴を含む捜査協力を行ってきた。漫画村については十分な材料がなかったため、海外での刑事告訴は行えていないが。

●CDNや広告主へのアプローチ……ほかの手段は?
――漫画村のコンテンツを配信しているCDN「Cloudflare」に対する訴訟はどうか。
 検討はした。訴訟の前に、Cloudflareのどのサーバに当社コンテンツが保存されているかなどの確認を、Cloudflareの協力を得て行う必要があるが、協力が得られるとも思えず、刑事告訴なり民事訴訟に持って行くには、最低半年かかる。当社も、割ける人手や予算に限りがあり、年17万件のテイクダウン要請で精一杯という現状がある。
――漫画村は、日本国内にあるEQUINIXのデータセンターの中に置かれたCloudflareの機材から配信されているとと推測されている。EQUINIXを訴えることもできるのでは。
 当社では、EQUINIXだと突き止められていなかった。
――海賊版サイトに広告を出稿する広告主や広告代理店に対して出稿停止依頼を行ったり、訴訟を行うなど、収入源を断つ対策はどうか。
 広告主に対しては、雑談レベルで内々に配信停止を要請するぐらいしかできておらず、実質何もできていなかったと反省している。今後本格的に、広告主や代理店に対して、掲載の自粛要請や、法的手続きも含む対応を、きちんと行っていきたいと思う。
――漫画の読者、ユーザーに、海賊版サイトを利用しないよう呼び掛けることも重要ではないか。
 検討している。テレビCMやラジオ、紙媒体など、さまざま手段を検討しており、近いうちに啓蒙活動を始めたいと思っている。

●「漫画村」による被害はどれぐらいあったのか
――コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、「漫画村」による権利者の被害額を約3000億円と試算した(※)。コミックス市場(電子含む)が4000億円前後で推移する中、この数字は「過大ではないか」との指摘もある。
(※)アクセス解析サイト「SimilarWeb」で漫画村のドメインを解析し、17年9月~2月ののべアクセス数(Total Visit)6億1989万に、漫画や雑誌の平均単価515円を掛け合わせた額。CODAは「逸失利益ではなく、あくまで流通額ベースの試算」と説明している。
 3000億円をそのまま売り上げと認識しているわけではない。電子書籍が“盗まれた”時、被害額をどう判断するか。海賊版サイトによる被害額を算定する基準や判例がまだなく、難しい。ただ“盗まれている”方は泣き寝入りするわけにはいかない。(CODAの算定した被害額など)何らかのオフィシャルの数字を掲げざるをえない。「3000億円と試算したが、実際の被害は3億円でした」ということはない。大きな被害は出ている。
――コミックスの売り上げが減少したとして、本当に漫画村の影響かどうかは分からないのでは。
 そういう見方があるのは承知している。漫画村の影響は社内では試算しているが、今後、民事訴訟で賠償を求めていくので、詳細の数字は出せない。ただ、漫画村が利用できた期間中、紙・電子とも、コミックスの売り上げが落ちた。漫画村が利用できなくなった後の売り上げ回復の状況を今、調べているところだ。

●「ブロッキングが唯一絶対の方策とは考えていない」
――今回、政府は「漫画村」のブロッキングをISPに促すことを決めた。法整備が行われない状態での海賊版サイトブロッキングは、ISPに通信の秘密の侵害を強制することにもつながる他、「表現の自由・知る権利に対する諸刃の剣」との指摘もある。表現を生業にする出版社として、政府にブロッキング推進を要請することは、自分の首を絞めることにもつながるのではないか。
 その懸念はあるが、海賊版サイトの被害が拡大し、あらゆる手立てを排除できない状態であるため、対策の選択肢の中に、サイトブロッキングも入ってくる。当社としては、ブロッキングが唯一絶対の方策とは考えていない。海賊版サイトに対するテイクダウン要請や訴訟、収入源となっている広告への対策、読者の啓蒙なども対策の一つだ。また、海賊版漫画(静止画)のダウンロード違法化、リーチサイト対策の立法なども必要だ。
――海賊版漫画のダウンロードを違法にする著作権法改正(静止画のダウンロード違法化)も求めていくのか。
 求めていく。漫画のダウンロード違法化は、音楽・映像のダウンロード違法化が盛り込まれた2009年の著作権法改正時にも検討されたが、最終的にに外されたという経緯がある。もう一度、検討すべきだ。
――政府がブロッキングを含む緊急対策を出したことを受け、出版各社が緊急声明を出した。集英社は緊急対策について「大きな前進」、KADOKAWAは「海賊版問題の抜本的な解決に向けた大きな一歩」、出版広報センター(センター長:集英社の堀内丸恵社長)は「出版界として歓迎する」と前向きな書き方だった一方、講談社の声明には、政府の方針に対する直接の歓迎の意思は特に示されおらず、温度差があるようだ。出版界は一枚岩ではないのか。
 出版社によっていろいろな考え方があるのが健全だ。
――海賊版のネット流通による被害は、かつて音楽業界も通った道だ。音楽業界は、レーベルの枠を超えた定額の聞き放題サービスを出すことで、海賊版はあまり利用されなくなり、正規のサービスが活性化した。漫画はそういった対策が遅れているという指摘もある。
 遅れていると言われれば、その通りだと言わざるを得ない。出版社を横断する漫画のポータルサイトはないし、本来は、ほしいと思う。「漫画村」のように完全無料で提供するのは難しいが、課金の仕組みや立て付けなどを含め、整備しないくてはならないと社内で検討している。これまで、ほかの出版社と非公式に話をした人間もいるが、具体的な仕組みを描くまでには至らず、なかなか話が進んでいないのが実情だ。

 漫画村、「Anitube」「MioMio」などの海賊版サイトについて、違法なのは明らかだ。
 厳しい措置を講じることには賛成するが、講談社やKADOKAWA、小学館などに私は厳しく指摘したい。そもそも、保護に値するコンテンツを世の中におたくらは送り出してきたのかと。
 講談社一つとっても曽野綾子という悪質極まりないレイシストを野放しにしてきた他、ケント・ギルバードという新手のレイシストを送り出す、漫画誌一つとっても少年マガジンでどう考えても青年誌向けの連載をやったり、優生主義丸出しの作品を垂れ流し掲載するなど問題があまりにも多い。
 こうしたことに対する反省がないのは如何なものか。皮肉を込めて遺憾の意を表すると言っておきたい。小学館に関して言えば売れるためならヘイトを商業化するという意味で悪質だ。インターネットの市民団体との話し合いを行いながら、ヘイト商業化路線から足を洗うべきだと断じたい。
 保護されるに値するコンテンツを世の中に送り出してきたら、このような騒動は起きなかったということだ。講談社がやるべきことは唯一つ、レイシズムとの決別と国際法と日本国憲法の遵守宣言、日本版メディアスクラムからの決別だ。せめて最低限そこから、まずは始めてもらいたい。