2020年5月31日日曜日

負け犬同士の統合では意味がない


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米高級百貨店「ニーマン・マーカス」破綻、債権者がサックス・フィフス・アヴェニューとの統合を提案
2020年05月14日 17:25 JST
Fashionsnap.com

 5月7日に米連邦破産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したアメリカの高級百貨店「ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)」の負債の一部を保有するヘッジファンド Mudrick Capital Management LP(以下、Mudric)が、競合同業者である「サックス・フィフス・アヴェニュー(Saks Fifth Avenue)」との統合を提案したとロイター通信が報じた。
 ニーマン・マーカスは、テキサス州ダラスで1907年に創業。アメリカ国内の新型コロナウイルス感染拡大を受けて今年に入ってから43店舗を臨時休業したことにより資金繰りが悪化し、3月末の段階で43億ドル(約4,800億円、1ドル=107円)の債務を抱えていた。ニーマン・マーカスは米連邦破産法第11章の適用申請とともに、DIPファイナンス(事業再生融資)として6億7,500万ドル(約722億円)を確保し、営業を継続する方針を発表した。
 ロイター通信によると、ニーマン・マーカスは40億ドル(約4,240億円)の債務放棄の見返りとして返済順位が高い債権者に経営権を譲る計画について債権者と交渉を進めているが、Mudrickは書簡で「サックス・フィフス・アヴェニューへの売却または統合を行うことは、債権者への経営譲渡による再建計画に比べ、債権者がより多くの資金を回収できる」と指摘。会社更生手続きを経て、ニーマン・マーカスがサックス・フィフス・アヴェニューと重複するエリアにある少なくとも22店舗を閉店して2社が統合することで、28億ドル〜47億ドル(約2,999億円〜約5,022億円)相当の価値を生み出せるという。サックス・フィフス・アヴェニューは2017年にもニーマン・マーカスの買収を検討したことがあり、今回も関心を示しているが、まだ正式な入札には至っていない。
 なお、サックス・フィフス・アヴェニューは昨年、競合他社である「バーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)」のブランド使用権を獲得。バーニーズ・ニューヨークは昨年8月に破産を申請し、競売にかけられたのちファッションライセンス事業を行うオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group、以下ABG)に売却された。ABGがサックス・フィフス・アヴェニューにバーニーズ・ニューヨークのブランド使用権を譲渡したことで、サックス・フィフス・アヴェニューの昨年末から公式オンラインショップ内で「Barneys at Saks」を展開している。


 COVID-19が直接的な倒産の原因であることは言うまでもないのだが、もし仮にサックス・フィフス・アヴェニューがニーマン・マーカスを買収しても、経営改善にはつながらない。
 理由はAmazonの存在だ。Amazonは電子ブックばかりではない、もはや食品ストアに新聞、放送局にまで手を広げているのだ。同月に倒産したJ.C.ペニー(アメリカ合衆国に本社を置く大手百貨店チェーン。 1902年にワイオミング州リンカーン郡ケメラーにて、ジェームズ・キャッシュ・ペニーらによって創業された。2020年2月現在約840店舗を擁する、シアーズ、ウォルマート等と並ぶアメリカの代表的なゼネラルマーチャンダイズストア)の再建が見えないなかでの倒産だ。まさに負け犬同士の統合を意味する。
 事態を複雑にしているのは、昨年に経営破綻したシアーズだ。このシアーズは経営破綻したKマートと統合したが、経営破綻後は店舗を削減している。その殆どが日本で言うイオンモールのような多核型ショッピングモールだから、恐ろしいではないか、アメリカに現在約1,100あるショッピングモールのうち、20~25%が2022年までに閉鎖されるであろうという調査結果が、スイスに拠点を持つ世界有数の金融機関であるクレディ・スイス(Credit Suisse)社から発表されており、ショッピングモールの閉鎖の大きな要因を3つ、以下のようにまとめている。
 
1.ここ数年急速に伸びているオンライン・ショッピングへのシフト 
  全米小売業協会(NRF)によると、2016年の11月と12月の2か月間のオンラインによる売り上げは、前年同月比で約13%の伸びを示したのに対し、デパート全体の売り上げは約7%落ちたということ。

2.オフプライス店舗の躍進によるモール離れ
 アパレルや服飾雑貨などの余剰在庫を販売するオフプライスストアの業績が躍進しており、TJX、ROSS、バーリントン(Burlington)や、ファイブビロー(Five Below)の店舗の多くがモール外に出店している。 

3.アンカーテナント(核テナント)の業績不振
 今までモールの核テナントとして集客の中心となってきた、メイシーズ(Macy’s)、J.C.ペニー(J.C.PENNY)やシアーズ(SEARS)といったデパートやGMS企業も、上述のオンラインやオフプライス企業の躍進による影響により、かつての集客力を発揮できずに業績不振に陥り、多くの店舗を閉鎖しており、核テナントの業績不振はモール自体の営業にダイレクトな影響を及ぼす。実際に核テナントの業績不振によるモールからの撤退により、閉鎖に追い込まれたり、ゴースト化しているモールもみられる。    
イオンコンパス・流通視察ドットコム 再活性化を目指す!米国モールの現状と取組より引用

 決定的な打撃は、大量消費社会への疑問だ。
 Z世代という言葉が出てきているのだ。彼らはモノをシェアするようになっている。その時点で消費を前提とする経済は成り立たない。
 ではどうやればいいのか。
 例えば、ワイナリーをショッピングモールにテナントとして迎え入れるのはどうだろうか。その他にも生活関連用品の製造工場をショッピングモール内に立ち上げるのはどうだろうか。
 小売業が生き延びるには徹底的に地域の需要に細かいところまで答えるしかないのだ。そこで、私は川崎市の4つの百貨店を思い出す。昔川崎駅前には、ダックシティ川崎こみや(旧小美屋)、西武百貨店、丸井、さいか屋があった。
 最初にファッション型百貨店に建て替えるとしてこみやが閉店したが、その後親会社のマイカルが会社更生法を申請して倒産した為、計画は白紙撤回された。次に西武百貨店が撤退し、丸井がフロアを独占した。次にさいか屋が経営不振から小型店にして撤退し、最後に丸井が撤退した。
 つまり、時代の流れにどこまで対応できるかが百貨店ビジネスの生き延びる鍵になるのだ。